ジェンダー平等の前進を図り、公正な社会のために力を尽くしたい

林 陽子 HAYASHI Yoko
弁護士/国連・女性差別撤廃員会前委員長/2018年度「津田梅子賞」受賞者

2019年4月18日(木)、公開講座 総合2019が小平キャンパスにて開催され、弁護士で2018年度の津田梅子賞を受賞された林陽子氏による講演会が行われました。林氏はジェンダー平等における活動を長年続け、2008年から国連の女性差別撤廃委員会の委員を、また2015年からは同委員長を2年間務めています。「ジェンダー平等をめぐる世界の潮流」と題されたこの講演会で林氏に語っていただいたのは、特に女性差別徹底への世界の動きと、これに遅れをとる日本の現状についてです。国連で女性差別撤廃のリード役を果たす林氏のお話は、これから社会に出ていく学生たちにとって、自分自身の問題として迫る内容になったのではないでしょうか。

林 陽子氏講演ダイジェスト動画(講演内容の詳細は下記テキストをご覧ください)

【林 陽子氏講演詳細】

差別の撤廃、女性の権利と平等を推進するために

女性差別撤廃条約という言葉を聞いたことがありますか? この条約は、1979年の国連総会で採択されて2019年で40周年になります。批准した国は、憲法または国の法令の中で男女の平等を規定し、事実上も男女の差別がなくなるような措置をとらなければなりません。そうした差別撤廃のための行動を各国がきちんと行っているかを監視する役割として、国連女性差別撤廃委員会という組織があります。私は、この委員会の委員長を2015年から翌年まで2年間務めていました。女性差別撤廃条約を採択した当時、日本は条約の要請を満たしていませんでしたが、男女雇用機会均等法の制定、国籍法の改正や教育カリキュラムの見直しを重ねて1985年に批准しました。

 

日本のジェンダー平等の課題

日本が女性差別撤廃条約を批准して、30年以上経ちますが、日本の男女格差は依然として解消されていません。その現状は、女性の政治参画や経済に関わる活動、健康、教育を指標とする、ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラムが毎年公表する)においても示されています。 例えば、女性の政治参画という面では、女性の国会議員の割合は世界の平均が23%に対して、日本の衆議院で女性が占める割合は10%。これはアジアの平均18%にも及びません。経済活動においても、日本では男女の賃金格差(正社員の比較でも男100:女73)、家事育児など家庭責任の偏りやセクシュアル・マタニティハラスメントなどの課題があり、管理職や取締役の女性割合も先進国では最低の水準にとどまっています。また、日本における教育の程度は一般的に高いですが、男女の格差はいまだ残ります。Science(科学)のS、Technology(技術)のT、Engineering (工学)のE、さらにMathematics(数学)のMを組み合わせたSTEMという言葉がありますが、この4分野を専攻する女性の数が男性に比べて圧倒的に少ないことが一つに挙げられます。特にこれからは、人工知能や電気自動車など、最先端の付加価値を生む分野の人材をいかに育成できるかに国の富がかかっています。STEM分野への女性の進出がこのままの状況だと、これから必要とされ高収入につながる仕事で女性が取り残されてしまう懸念があるのです。したがって、これら4分野の教育はもちろん、大学を選ぶ前の段階で幅広く職業選択を考えられるような働きかけを高校生、中学生に行ったほうがよいと思います。 女性に対する暴力についても課題があります。例えばセクシュアル・ハラスメントも女性に対する暴力の一つと言えますが、OECD(経済協力開発機構)加盟36か国のうち、セクハラについて民事でも刑事でも救済する法律がない5か国の一つが日本なのです。法律があっても実際にimplementation(履行)されていない国もあるではないか、という反論もあります。確かに履行されているかどうかをみる必要はありますが、その前に国の方針としてセクシュアル・ハラスメントは違法であるという規範を作り、被害者は民事でも刑事でも救済を請求できるという法律を作らなければ履行も何もありません。法律があって初めて履行しましょうという話になるので、まず入口としての立法は必要だと思っています。今年のILO(世界労働機関)総会で仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約が採択予定であり、日本にもハラスメント対策立法が必要です(追記:2019年6月のILO総会で条約は採択された)。

 

男女共に生きやすい公正な世の中の実現

ジェンダー平等、中でも女性のための運動をずっと行ってきましたが、私はあえて男女共同参画という言葉ではなく、ジェンダーという社会的な力関係を反映する言葉を使っています。その理由は、男性自身もジェンダーの役割に抑圧されている面があるのではないかと思うからです。したがってジェンダー平等のための運動は、女性だけが解放されればいいというわけではなく、男性も女性もより生きやすい公正な社会は、どうあればいいかを考えていく運動と捉えています。つまり、男性と女性でパイの分け前を奪い合うのではなく、パイのレシピ(あり方)自体を変えましょう、と考えるのが、ジェンダー平等のための運動であり、実際に意思決定の場でジェンダー平等を推し進めることにより、日々の暮らしは変わってきました。 ジェンダー平等を巡る世界の潮流は決して同じ場所に留まらず、常に前に動いています。ただそれは必ずしも順調な前進ではなく、三歩進んで二歩後退のようなジグザグがあり、バックラッシュ(揺り戻し)もあり、さまざまな後退もあるのですが、世界中の人たちが負けることなく連帯しながら前に進んでいる現実があります。私も国連その他、国際会議に行くと、いつも世界中の女性たちの運動に励まされ、日本でも新しい取組みをしなければいけないと日々感じてきました。 皆さんには、津田塾大学で学ぶことによって、まず自分自身がこれからの人生を生き抜くための力をつけていただきたいと思います。それと同時に、日本がより公正な社会へと向かうよう、皆さんがジェンダー平等をはじめとする社会的な課題の解決に関心を持ち続けて下さることを期待しております。

林陽子氏講演「ジェンダー平等をめぐる世界の潮流」