全てをプラスに捉える津田梅子のスピリットを胸に生きる

和田 一美 WADA Kazumi
通訳者

2019年6月4日(火)、津田塾大学 創立120周年記念事業であるリレートークが小平キャンパスにて開催され、通訳者の和田一美氏の講演が行われました。「ことばを通して世界と出会う」と題した本講演で、和田氏は、英語のレベルアップに向けた学生時代の努力に始まり、通訳者としての活動だけでなく環境の変化にどう対処してきたかを分かりやすく語ってくださいました。夢を叶えるためのアドバイスも織り込まれた内容は、これからまさに夢を追いかける学生たちにとって有意義だったのではないでしょうか。また、外国文化とバランスを取って 向き合ったエピソードは、一人の女性の生き方としても参考になるお話でした。講演終了後の質疑応答では、夢をつかんだ和田氏のアグレッシブな生き方に関する質問が寄せられ、その一つひとつに丁寧に熱く答えていただきました。

和田 一美氏講演ダイジェスト動画(講演内容の詳細は下記テキストをご覧ください)

【和田 一美氏講演詳細】

英語に対するコンプレックスを克服する猛勉強

私が日本語・フランス語・英語の会議通訳者をしていると言うと、最初から外国語ができたと思われるかもしれませんが、実は18歳になるまで私にとっての外国は映画やドラマ、小説で見るだけでした。
そんな私は津田塾大学に入学し、帰国子女をはじめ海外と接点がある学生が多い現実に衝撃を受けました。母に「ここでは英語ができない人間なの」と伝えたほどです。しかし私は、そこで「即行動あるのみ」という「津田スピリット」を実践しました。英語上達に関わるあらゆる本を読み、AVライブラリーを利用し、帰国子女の友人から英語表現をインプット。先生に相談し洋書を読むという助言をもらうと、一語一語、辞書で調べて読む方法と、文字におぼれるように流し読みする方法を実行。英字新聞を購読し、辞書で調べながら英語ニュースを聴く勉強を1年半実践。さらに睡眠学習まで行い、大学2年の夏にはアメリカの大学の集中講座もとりました。一連の過程で私は、自分を叱咤激励 するだけでなく、ときには自分を褒めながら、達成できたこと、できなかったことを振り返りました。
こうして英語が共用語の外資系証券会社に入社できるまで英語力を上げたのです。社内通訳者として勤務しながらフランス語の通訳者も目指して通訳学校に通い、数年後、フリーランスの会議通訳者になりました。普通では会えない方と会えてこれほど面白い仕事はないと思えました。通訳する方が素晴らしいと感動して泣きながら通訳したこともありました。

 

海外赴任への同行、仕事と生き方を見直す

通訳者になった後、外交官である夫の赴任でニューヨークに行くことになりました。夫を支えるのは喜びでしたが、日本と同じように通訳ができなくなりました。そこで案件を絞り、国連のブースでの通訳の機会も得るなど中身の濃い仕事をしました。次のアルジェリアでは1年半で2回しか通訳の仕事がなく、自分が必要とされていない気持ちになりましたが、その後のフランスでは4年間、ヨーロッパの域内で通訳を行いました。様々な国際機関の会議で仕事をし、苦労もしましたが、それだけやりがいもありました。
一方、仕事とは別に、ボランティアにも携わるようになりました。メトロポリタン美術館で日本語とフランス語で案内を行い、ともに支えあい協力し合うというボランティア活動の重要さを実感しました。ここで得た美術に関する知識は今も役立っています。アルジェリアでは外交官の妻として親日家を増やすのをミッションと考え、日本をよく知ってほしくて積極的に周囲と交流しました。フランスでもボランティアを経験しました。

 

目標を常に見失わずに努力を重ねる

私は20年以上も前に通訳者になる5年計画を立て、1年目には何をすべきかを考えて月毎に分け、さらに1日ずつ目標設定すると、毎日目にするため頭に擦り込まれました。ただ住む国や状況により全て同じペースで実現はしないので微調整が必要です。頑張って変えられることと変えられないことがあるので、変えられないことには力を注がない。でも変えて自分がよりよくなり、ほかの人や社会にプラスになるなら頑張って変えようとしています。全てで無理しないことも大切です。いつか蓄えた力でやりたいことをやろうと言い聞かせましたが、どうしても譲れない点は、できなくても何年間かはずっと思い続ける。そうした信念が大切かもしれません。通訳学校に通いながら、寝る前に通訳者の 自分の姿を想像していました。今の私は、当時の想像とほぼ似ているので有難いです。でも私の成長は終わりではなく、もっといい通訳者になりたいし、まだ伸びしろがあると信じています。最後まで通訳者でありたいと思って仕事をしています。

 

「津田スピリット」を基本に歩む

「津田スピリット」で、どの国でも最終的にはプラスに捉えていきました。津田梅子先生も「私は憂鬱になったり落胆したりせず、明るい面を常に見るようにしたい。物事を幸せに考えるたちなんです。光があるのであれば闇の中でもその光の中をきちんと見たい」と書かれています。どうせ過ごすのなら常に前向きにとった方が自分にもよいし、ネガティブに考えるとそちらに引っ張られます。面白そうと思ったらトライする姿勢はどの分野でも役立つはずです。もし想定する方向に行かなくても自分で選べば後悔はしません。やらない後悔とやって思う後悔はレベルが違うので、興味があることはどの国でもやってみました。
  一人の人間として、言葉に関わる体験をし、異国で暮らす中で、津田塾大学で学んだスピリットはとても重要でした。それを常に反映したからこそ、様々な経験ができたと思います。そして、自分の芯になる姿勢がしっかりしていれば、皆さんが好奇心を感じた領域や興味をもった世界で収穫が得られるのではと思います。日本でも海外でも、何か新しい世界との出会いがあると思います。

和田一美氏講演「ことばを通して世界と出会う」